道東(1999.3.18-26)


  1. 松前(3.19)
  2. 網走(3.20)
  3. 釧路(3.21)
  4. 浜頓別(3.22)
  5. 留辺蘂(3.23) このページ
  6. 紋別(3.24)
  7. 苫小牧(3.25)

ホームへ戻る   ご感想はこちらへ


 私は早朝の札幌駅に降り立った。前日までに比べだいぶよい天気になったが、この旅の初日に確かにアスファルトが露出していた北口の道路も、今日は完全に凍り付いている。昨日の雪は道南、道東を中心に、3月としては最高記録であった、とコンコースのテレビのニュースは報じている。

 昨日とうって変わってまぶしいほどの快晴のもと、私は網走行きの特急に乗り込んだ。空模様は清々しいが、道路や屋根に積もる雪の量は半端ではない。その新雪が明るさを増幅しているかのような印象を受けるほど、あたりは輝かしい雰囲気だ。旭川を境に、車窓は雪深い雪原から雪深い山道へと変わっていく。それでも山道特有の鬱蒼とした雰囲気は全くと言っていいほど感じられず、相変わらず明るく清々しい車窓が続いていく。上川を過ぎ、普通列車が1日1往復しかない区間にさしかかると、車窓は山越えの様相をより強く出すようになった。葉を落としたシラカバ、ダケカンバやエゾマツ、トドマツ、そのほかいろんな木々が車窓を取り囲む。斜面は厚い雪に覆われて輝き、風景を明るくする。普通列車の本数が物語るとおり人家もほとんど見あたらず、まさに手つかずのと言ったところだ。線路には蛇行する川が右に左に寄りそう。そして白い河原の中を、細く穏やかに流れていく。林業の街であるという丸瀬布付近では林の中にも切り株が目立ち、丸太が山積みになる風景もそこここに見られる。もちろん建物も多いのだが、どこへ行ってもあくまで白い世界が展開し続ける。

留辺蘂無加川 今日は私は留辺蘂の付近で過ごすことにした。街の中には大量に雪が残るが、高い日射しは雪を徐々に溶かし、道路はむしろ水浸しになっている。昨日までのような寒さもなく、むしろ暖かいくらいだ。線路と無加川にはさまれる領域には案外立派な商店街が開け、人々は除雪に忙しく動き回る。今までになく活気のある街であるように見えたのは明るい天気のせいだけではなさそうだ。無加川に架かる中央橋からの眺めもきれいで、真っ白な河原に青い流れはあくまでゆったりとしている。

 留辺蘂を訪れたのは北きつね牧場に行ってみたかったからで、私は留辺蘂駅から温根湯温泉に向かうバスに乗り込んだ。留辺蘂の街には入りやすそうな店が並ぶ商店が国道に合流するまで建ち並び、その国道沿いにもしばらくにぎやかそうな街並みが続いていく。生活には便利そうな所だ。街並みを抜ければまぶしいばかりに白い大きな畑の間をバスはまっすぐ進むようになった。再び現れる大きな街並みこそ温根湯温泉で、その街に入り込めば留辺蘂よりもむしろ大きな商店街が私を出迎えてくれる。しかし、開いている店がそっちよりむしろ少なく見えるのが私には気がかりだった。果たして、温根湯の温泉街は確かに街としての体裁は整っているのだが、やはり、開いている店が少なく正直言って活気がない。時期をはずしているだけならにぎやかな時期があるということにもなるのだけど、いつ訪れてもいいはずの温泉街にそんなものがあるのかどうかは私にとって気にかかったままである。

北きつね牧場 午後になって日が陰り、寒さをまた感じるようになった温根湯温泉の淋しい街並みを私は歩いた。北きつね牧場はそのはずれにあった。周りの雰囲気は淋しいのに、無加川に架かる真っ赤な橋と大きな赤い鳥居は遠くからでも目立ち、さも華やかそうな雰囲気を主張する。しかしその主張とは裏腹に、そこを訪れている客は皆無と言っていいほどの寂しさだ。名前の通り園内ではキタキツネが飼われているのだが、要するに人間も檻の中に一緒に入れてしまえという考え方の施設である。人間がいないときのきつねはそれなりに奔放に暮らしていているようで、その様子の片鱗は、無邪気にそこいらをかけずり回ったり、雪に穴を掘って顔をつっこんでみたり、、あるいはじゃれあったりという彼らの姿にかいま見られるわけだが、そんな様子をよく見てみると、個体ごとにそれなりに個性を見いだすことができるのだ。人間が近づけば一目散に逃げるものもあれば、物怖じせず悠々と脇を通り過ぎていくものもあり、遠巻きにこちらを眺めているものもあれば、近くまで寄ってきて好奇心旺盛な目で見つめてくるものもある。なかなか可愛い ものである。四つ足の動物には何であっても感情移入しやすいということかもしれない。観客はきわめて少なく、その分ゆっくりできれば越したことはないのだけど気温は下がる一方、しかも融けた雪が容赦なく靴にしみこんでくるとなれば、そうも言ってられなくなってしまった。近くの国道には道の駅もある。しかし、ここもまた、冬期間は待合室を除いてすべての機能を停止してしまっているようだった。きつねは冬眠しないというのに……。

 温根湯温泉のバスターミナルの前には公衆浴場もあるのだが定休日らしくて入ることもできず、当初の目的こそ果たしたもののどうも寂しさを拭えないまま、私は温泉街を後にし、留辺蘂の市街地に戻った。乗る予定にしていた上りの特急列車まではまだ時間があって、夕食の仕入れがてら、私はしばらくせっかくにぎやかに開けた商店街を散歩することにした。陽は傾き気温は下がり、雪解け水は再び凍結を始めていた。にぎやかな街に敬意を表していろんな店から細々に食料を調達し、私は札幌行きの特急列車に乗り込み、あとは夜の闇の中をひたすら進むのみとなった。上川の辺りで再び雪が舞っていた以外はいい天気で、札幌に近づけばきれいな月も見られるようになっていた。今朝あんなにがちがちだった札幌の道も、まるで別の街に来たかのように、氷がだいぶなくなって歩きやすいものになっていた。札幌でもさぞや、いい天気だったのだろう。そして私は再び、網走行きの夜行列車の乗客となったのだった。


次のページへ進む
このページの先頭へ戻る
前のページへ戻る

ホームへ戻る
ご感想はこちらへ