五能線沿線(2005.12.27-2006.1.1)


1.往路(12.27) / 2.能代、滝ノ間海岸(12.28) / 3.十二湖、大間越(12.29) / 4.千畳敷、深浦(12.30) / 5.鰺ヶ沢、津軽鉄道、小泊(12.31) / 6.五所川原、帰路(1.1)

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 天気予報では冬型が緩むとは言っていたのだが、外はまだ曇っている。今日も相変わらずの吹雪模様だ。夜も列車の音が聞こえてきたが、明るくなって外に出てみればなるほど、真っ白になった線路が実は宿のすぐそばに通っていた。その向こうには雪原を経て、海の姿も垣間見られる。宿の近くを流れる川の橋の上に立てば、鴎が群れる海岸も、また川の源の白神方面の長閑な山並みの風景も、雪を纏って美しい。そして漸く全貌を顕わにした駅前の商店街は、何のことはない賑やかな部分が一筋に集中する素朴なものだった。陸奥岩崎駅は今は無人駅になってしまっているが、残された張り紙によればつい最近まで有人駅だったらしい。ホームに立てば、薄くなった雲の間に白神山地の一部が浮かび上がってきた。晴れ上がったらさぞ、雄大な風景になるだろうに。

五能線の車窓 私は早速やってきた五能線の列車に乗り込んだ。鴎の群れは河口の、流れの穏やかな所で作られているようだ。列車は松原の中を行くことが多いが、木々の間には海岸の風景も垣間見られてくる。やがて列車は森を出て、海にせり出す大きな岩が美しい海岸の風景の中を進むようになった。僅か一駅だけなのに、何だか充実した車窓である。

 私は十二湖という、いかにも観光地のありそうな駅に降り立った。小さいながらもきれいで立派な建物の駅舎では切符こそ売っていないものの、観光に特化した駅らしく周囲に普通の民家は見当たらず、小さな旅館だけが待ち構える。駅舎内の観光案内所には人の気配はあるのだが、オフシーズンの駅の周辺はあくまでひっそりと静まり返る。海に対峙とまではいかないが、雪原の向こうには海も眺められ、車窓から見られた美しい海岸にも行きやすいのではないかと私は期待した。

十二湖駅方面を振り返る この時期果たして十二湖自体へ立ち入れるのかどうかが、私にはよくわからなかったのだが、リゾートしらかみの関係で十二湖までバスが云々というくだりもあるようだったので、除雪くらいはされているだろうと踏んで、私は駅のコインロッカーに荷物を預け、身軽になって周辺を歩いてみることにした。十二湖へ直行する形の県道は冬期通行止めとなり除雪もされていなかったが、少し離れた所からサンタランドという所へ通じる道は除雪されているようだった。

 道はかなりの急坂が長く続き、いかに身軽になったとはいえ、私にとってはかなり辛い道だった。振り返れば岩崎の海岸線が大きく広がったが、それも進むにつれて道の両脇を塞ぐ山並みに阻まれてだんだんと小さくなり、やがて完全に辛く厳しい登り一方の道となった。それでもサンタランドへの道と分岐すると多少は傾斜も緩やかになり、冬型が緩んだおかげか風もさほど強くなく、雪も時々舞い散るのみとなった恵まれたコンディションの中、私はひたすら歩き続けた。白神山地の続きなだけあって落葉樹も多いのか、道を囲む山肌には葉のない木々ばかりが茂り、白い道沿いには白黒の斑の山並みが折り重なるように続いていく。そんな山の合間を、道はアップダウンを繰り返しながら何度もカーブを切って続いていく。

凍った湖 そんな感じの山道を私は延々と1時間も歩き続けた。やがて道は、恐らく駅前から直接山を登ってくる除雪されていない県道と合流した。除雪された道はまだまだ続いていき、そして道の脇に高く寄せられた雪の上からは、山に囲まれて裸の森に守られるように、小さな湖が真っ白に氷結して静かに横たわるようになってきた。十二湖という名前の示す通り、道を進めばいくつかの小さな、時には比較的大きな湖が、道沿いには代わる代わる現れてくる。大抵は白く凍ってしまっていたが、中には一部液体の水のまま残って、対岸の黒い山と白い空を映し出しているものもある。どうやら沢が流れ込んでいる湖は凍らないらしいのだ。比較的大きな王池の周囲には、旅館の大きな建物があって、夏場は賑わっているのだろうなと想像させられる。もちろん立ち入り自体が難しい今の時期、その建物も完全に閉ざされているし、本来ここは車道の分岐点であるはずなのだが、分かれている道の一つは完全に雪に閉ざされたままだ。

凍らない湖 落葉樹の森の中へと引き続き続いていく道を、私は更に登っていった。車道の雪はブルドーザーで踏み固められていて、キャタピラの跡を踏んでいけば安全に歩くことはできるのだが、道の真ん中は柔らかい雪が残っていて、ずぼっと足が嵌ってしまう感覚もある。私はそんな道を進みながら、褐色の山の懐に抱かれるような湖をいくつかやり過ごしていったが、一番見たかった神秘の青池への歩道は、冬でも凍らないという謳い文句が書かれていたので私は期待していたのだけれど、どうやら除雪されていないようだった。私は仕方なく、青池の入口に暫し佇んだ。ごく稀に鳥たちの立てる音が静かに辺りに響くが、風のない今日、基本的には全く音のない世界となって、目を閉じてしまうとこの白い静寂の世界に飲み込まれてしまいそうだった。凍りつかない湖のそばでは流れ込む沢のせせらぎの音が響いていたのだが、人の寄りつかない季節、動物たちも活動を止める季節、十二湖の湖たちもこの静かな白い世界の中で、冬の眠りについているのだろうか。ぜひまた違う季節に、一帯の湖を全て見せてもらうつもりで訪れたいものだと私は思った。

凍らない湖 私は時々思い出したように襲ってくる吹雪に耐えながら、褐色の山並みに囲まれる真っ白な下り坂をひたすらと下って行った。山の上ではあまり感じなかった冷たい風も、下っていくにつれ、昨日までのようなひどいものではないにせよ、肌を刺すようになってくる。やがて私はサンタランドの上で、下界に広がる海の風景と再会し、感動のあまり下る私の足取りは更に軽くなっていった。登りの道はなかなか進めなかった急坂だったのと対照的に、下りは快適そのものだ。白い丘陵に挟まれるように存在した絵のような海の風景も次第に大きくなっていき、青池入口から1時間半ほど歩いて、私は無事に下界へと戻ることができた。

森山海岸 私はその足で、駅とは反対の方向に少し進み、車窓からも見えた美しい海岸へ足を延ばしてみることにした。森山海岸というらしく、国道からそちらの方へ向かう道に入ると、入り江状の日本海を囲む対岸の陸地の上に、ぼんやりと白神山地らしき山影も見えるようになっていて、なかなか絵になる美しい風景だ。踏切を渡って旅館を掠めていくと、象岩とあと一つ、柱状節理の発達した大きな岩山が、昨日見たほどではないにせよ荒々しく波を寄せる海に浮かぶ。それらの岩山や、陸地から海にせり出す岩も、垂森山海岸直に近くなるほど激しく浸食を受け、中には穴があいてしまっているものもある。それでも岩場の中にいる限りは波は穏やかなようで、寒いのに岩の上に登って釣りを楽しむ人も何人もいて、寂しさを感じることはない。吹きすさぶ風の冷たい中、私は道に沿って岩山の中腹まで登っていった。トンネルを越えていくと、そんな美しい海岸の続きが少しだけ、森山という小さな集落に面して佇んでいた。隣には小さく素朴な漁港もあって、特に人が出ていることはないけれど、日本海の荒波に負けずに頑張って生きているのだといった感じの佇まいを誇っていたのだった。

 十二湖駅に戻って改めて周囲の建物を眺めると、「ラーメン」という幟を掲げる旅館があった。こんな時期だし昼食は食べられないかもと覚悟をしていた私にとってはとても魅力的なものに思えたわけである。私はあつあつのラーメンで、冷え切った体を温めることができた。

 食後、私は再び五能線の列車に乗り込んだ。短い乗車時間で複乗区間の切符を買ったりしなければならずに慌しく、ゆっくりと車窓に集中というわけにもいかないものだ。列車は暫くはちらちらと海の垣間見られる雪原を行ったが、白神岳登山口駅の辺りからは車窓一面に海が広がる道を進んだ。海岸に転がる石は、ここでは大きさが揃った丸いものばかりで、人工的に置かれたものなのではないだろうかと思ってしまうほどだ。鴎も大量に群れている。そして大間越に近づくと海沿いには砂浜も見られてきた。波の押し寄せない範囲は雪が積もって白く、波が来る所は褐色に、そして海原は灰色と、面白い色分けのなされる海を見ているうちに、列車はあっという間に大間越駅に到着した。

大間越付近 私は大間越駅に降り立った。次の列車までは約3時間あり、その時間をつぶし切れるかどうか、自信はなかったけれど私はとりあえず駅前に広がる小さな家並みへと歩き出してみた。トンネルへ向かう国道と別れ、海沿いに南下すべく、港の周りに広がる小さな素朴な集落へと進む。どこにでもある小さな港なのだけれど、防波堤の上に停まる鴎の数は半端ではない。超満員ラッシュ状態で小さくなった鴎が防波堤の上を固め、時折空に舞い上がる。最早見慣れてしまった、雪を大量に被った小さな漁村の集落の中を、山並みから流れ下ったばかりの津梅川が貫き、雪に煙りながらも山側にも雄大な景観を作り出している。そして河口の流れの穏やかな所には鴎が群れをなして浮かび、その向こうにはまた、日本海が波を寄せてくる。

大間越海岸 私は集落を抜け、海に飛び出した岩場を回りこむように海沿いを進んだ。ここにも黒い、大小様々な岩のごつごつとする海岸線が伸び、日本海は今日もその黒い岩の間に、鮮やかなまでに真っ白な波を激しく寄せている。そして弓なりに伸びた海岸は遠くの方にまで続いていき、その全ての部分に白い波が絶え間なく、激しく押し寄せる。列車もトンネルに入ってしまい、道のすぐそばにまで崖が迫ってくる。岩館の続きのような感じのする激しい印象の海岸だったが、岩館よりもより間近に眺めながら歩けることが、私は嬉しかった。海にせり出す岩場をまた一つ回りこむと、そこには突如として整備された砂浜の海岸が現れた。大間越ロマンの里とか言ってオートキャンプ場もあったりするようだったが、この時期人の気配などあるわけもないし、その砂浜を過ぎてしまえば再び同じように黒い岩場の美しい海岸線が続いていくのである。そして空には大量の鴎たちがしきりに飛び交い続ける。

雪の海岸を走る五能線 ここからは線路の方が海側を通るようになって海からは少し距離を置く格好になってしまったが、時折襲ってくる吹雪にも耐えながら、私は引き続き一心不乱に歩き続けた。道は再び海に突き出す部分を回りこみ、また新しい海岸線の風景との出会いを迎え、中の澗跨線橋という所に差し掛かる。要は車道と線路が交差する地点で車道の方が高台に登ることになったわけだが、五能線の列車もグッドタイミングで走ってきて、折悪しく吹雪になっていた所ではあったが、高台からは弓なりに緩やかに曲がる黒い岩の海岸線に、広大な灰色の日本海が真っ白な波を寄せる風景をバックにして、列車が力強く走っていくという、実に雄大な風景が一瞬展開したのである。私はその一瞬の雄大な風景をカメラに収めようと、必死になっていた。

 そうこうしているうちに駅から1時間と10分ほども歩いてきたことに気づき、私は列車の時間の関係上、そろそろ駅に向かって折り返すことにした。岩手と青森の県境は恐らくまだまだもう少し先であろうが、道の先には次の家並みらしきものもあり、興味をそそられはしたけれど致し方ない所である。再び黒い海岸線に荒々しく波を寄せる日本海を眺めながら、私は駅へ引き返す道を歩んだ。辺りは次第に薄暗くなってきて、大間越の集落へと戻る頃には、少しばかりの街灯に灯りが点り始めていた。駅に着く頃には辺りは最早夜と言ってもいいくらいの風情だった。丁度5時となり、街なかには夕焼け小焼けのメロディーが響いたけれど、こんな天気が続くのでは、せっかくの日本海側だというのにそもそも夕焼けなんて見られないことの方が多いのかもしれない。

 そして私はまた五能線の列車に乗り込んだ。外は既に闇の中となり、基本的には周囲には何も見えず、ごく稀に家並みの灯りの粒が車窓を流れていくのみだった。ウェスパ椿山の駅前にだけは妖しい照明が点り、もちろん人の気配は全くないのだけれど、独特の雰囲気が感じられた。

 私は艫作(へなし)という駅で列車を降り、送迎車に乗り込んで今日の宿の黄金崎不老ふ死温泉へと向かった。私以外にもこんなローカル列車から送迎車に乗り込んだ人が2組もいて私は少しだけびっくりした。駅の周辺には小さな商店の姿もあったりしたが、基本的には闇の中でしかなかった。恐らく周囲には何もないのだろうが、宿は有名どころだけあってかなり大きなものだった。これまで小さな旅館やビジネスホテルなどを渡り歩いてきた身にはかなりの贅沢であるようにも感じられたものだったが、黄金崎という名前の由来ともなった黄金色の鉄分の多い温泉を、ここぞとばかり私はしっかりと堪能したのだった。


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