五能線沿線(2005.12.27-2006.1.1)


1.往路(12.27) / 2.能代、滝ノ間海岸(12.28) / 3.十二湖、大間越(12.29) / 4.千畳敷、深浦(12.30) / 5.鰺ヶ沢、津軽鉄道、小泊(12.31) / 6.五所川原、帰路(1.1)

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能代市街 朝の能代の市街へ歩き出せば、開いている店は少ないけれど、たくさんの人が軒先の雪掻きに追われる。今日も雪模様ではあるが、車道には車の往来も多い。メインストリートも雪に覆われるが、路地をのぞき見れば、やはり大量の新雪に埋もれてしまいそうになっている。

能代工高付近 私は市街の中心から外れ、住宅街の中を通って、有名な能代工業高校の前を通りがかった。校舎もいくつもの建物に分かれているようだったが、入口に近い校舎に大きく掲げられた校章の下にバスケのブロンズ像というのはさすがである。こんな暮れも差し迫った時期であっても普通に緑の制服を着た生徒たちが登校してくるので、あまりじろじろと見ることはできなかったのだけれど、裏側に回りこめばさすがに大きなグランドも用意されている。市営の球場や陸上競技場とも隣接するその領域はまた背後の深緑に囲まれる大雪原となり、眩しい景観を与える。

 そしてすぐに、市街と本当に隣合わせとなるように、風の松原と呼ばれる鬱蒼とした領域が現れた。外から見る限りは何の変哲もない松原で、やはりたっぷりと雪の積もった地面の上にひょろりと背の高い松の木がたくさん茂り、深緑色の森の風景をつくる。中に通される遊歩道も、ある程度はブルドーザーで踏み固められていたので、私は松原の中へと足を踏み入れてみた。犬を散歩させたり、単にウォーキングを楽しんだりする地元の人もそれなりに多くいて、この季節だから寂しいかもと思っていた私は少しほっとした。森を突っ切れば港があるようで、私はその方角へ森の中に通された道を進んだ。森は真っ直ぐ前を見ていればあくまで深緑色だというのに、ふと立ち止まって後ろを振り返ると一転して白い森になるのである。周囲の松の木の海に面する方だけに雪が付着しているためで、なかなか面白い現象だ。

風の松原 しかし除雪の徹底しているのは入口を中心とする一部の領域に限られていたようで、更に奥の港へ向かう遊歩道では、轍や足跡の上にたっぷりと新雪を蓄えたままだった。足を踏み入れればずぼずぼと脛の辺りまで埋まってしまうのは当たり前といった風情で、昨日新調した長靴が早速大活躍だ。港へ最短距離で向かえる道は、森を抜けてからも完全には除雪されておらず、この靴であっても太刀打ちできないような雰囲気で、私は別の道を探しに行かざるを得なかった。なるべく人の足跡や轍のある道をと思いながら、私は森の中を彷徨い歩いた。ひょろひょろと立つ松の木は、港の強い風に吹かれて揺らめき、静かな森の中に音を発生させる。

 やがて私はなんとか港の方へ森を抜けることができ、防風フェンスに守られている車道との合流を果たした。しかし、風の勢いもまた、とてつもないものとなってきた。風の松原という名前は、語感の美しさとかそういうことではなく、実にその機能を重視した命名なのだと私は理解した。私はそんな凄まじい風に吹かれながら一生懸命に歩いた。橋を一つ越えれば吹きすさぶ、風は更に強くなっていった。

 長く一直線に海と向き合う港の岸壁には、はまなす画廊という名前がつけられ、たくさんの可愛らしい絵がコンクリートにペイントされる。その周辺も小公園として整備されるが、ここもやはり雪に埋もれる。しかもここの雪はがりがりと氷のように硬いのだが、それでも誰かの足跡のような穴の中にたまっている雪だけは柔らかいのだ。どうやらここに降る雪も間違いなく粉雪なのだけれど、積もり固まる前にこの風に吹き飛ばされてしまうのだろう。そんな厳しい情景を容易に想像させるような、あまりに強い風が常に海から吹きつけてくる。

はまなす公園 公園の一角にははまなす展望台という建造物があった。大荷物を背負ったまま100段の階段を登るのは私にとっては大変なことだったが、登ることで私は周囲の港の様子を一望のもとにすることができた。ここまでに歩いてきた松原も全体はかなり広範囲に広がって、深緑色だけで構成される一帯をつくり、そして人工的な直線的な形に固められた白い港の陸地に、深い青色の海が接している。海は防波堤の内側であってもそれなりに動きがあるように見えたが、防波堤の外側ではやはり、狂ったように白い波を陸地に打ちつける荒々しい姿を見せていた。松原の背後にはうっすらとではあるけれど、白神山地の山並みの姿も遠くの方にのぞかれる。展望台の中では閉鎖された空間となるので風を感じることはないのだけれど、常に展望台に打ちつけるような風の音が轟く。そして暫くするとこのように何とか望めていた展望も、あっという間に猛烈な吹雪に飲み込まれ、真っ白な世界しかうかがえない状態となってしまった。すぐ近くにあるはずの火力発電所も、そして松原や海でさえ吹雪の中に埋もれてしまったかのように、全く何も見えなくなってしまったのだった。

はまなす展望台から能代港 吹雪が止んで辺りに雪以外のものが見られるようになったのを見計らい、私は再び風の松原へ向かって、厳つい港の中、来た道を引き返していった。松原の中に入ればあんなに強かった風も穏やかになったし、また新しく積もった雪の感触を楽しみながら松原を抜けて再び能代工業高校の裏に出ることができた時は、私は何だかほっとした気持ちになった。海岸で荒れ狂うように吹きすさぶ厳しい季節風をこんなにも和らげてくれている風の松原の働きに、私は強く感謝するしかなかった。

 私は雪に埋もれそうな住宅街や大通りを、再び雪を踏みしめながら歩き、能代駅へ向かった。駅に着く頃にはもう次の列車の時間がかなり近づいてしまっていて、私は今日も店で昼食を食べることを諦めざるを得なかった。駅のすぐ近くにスーパーやコンビニのようなものは見当たらなかったが、公設市場があって、そこで売られていた弁当を入手して私は五能線の列車に乗り込んだ。

五能線の車窓 能代駅をあとにした五能線の列車は雪深い能代の市街を行き、渡る大河は大量の氷を浮かべてゆったりと流れ、また美しい風景が車窓に展開した。そして向能代を出ると、車窓には松原や杉林が続きながらも、時折大雪原ものぞかれるようになった。列車は1両だったから空いているボックスはなかったけれど、駅に停まるごとに少しずつすいてくるようだった。駅の周囲にちょっとした集落が開けることはあるが、車窓には基本的には雪原の風景が続いていく。空も晴れることもあれば、また視界の利かない吹雪となることもあった。

五能線の車窓 東八森を出ると暫くして雪原の向こうに海の姿も見えるようになってきたが、地吹雪も猛威をふるい続け、その姿はよくは見えない。しかし程なく、久々に見つけた海に喜ぶかのように、列車は急にごつごつとし始めた地形をものともせず、ゆっくりと海に対峙する大きな岩の上へと登り始めた。登りきった辺りで並走する道路には鹿の浦展望台なる建造物が設けられていたが、雪を被った崖へ向かって今日も日本海が荒々しく白波を打ち続ける険しい風景は、極めてゆっくりとしか進めない列車からでも存分に楽しむことができる。

 八森駅は高台にあって、迫り来る白神山地に背後を守られながら、屋根に雪を乗せた家並みが、荒れ狂う日本海に負けずに広がる展望が開ける。家並みの奥には波濤が激しく砕け散る様子もうかがえる。そして八森を出ると列車は海岸から離れていくが、険しい地形であることを物語るように、列車は引き続き極めてゆっくりと進んでいった。

岩館海岸 私は乗った列車の終点となる岩館駅に降り立った。小さいけれど無人駅ではない岩館駅の周りには、やはり小さな集落が雪に埋もれている。能代の港に吹いていたのと同じくらいの強さの、しかしどことなく柔らかさのある風に吹かれながら、私は駅の周りの真っ白な集落を歩いた。白神山地に連なる山並みもすぐそばまで迫ってきている。やがて坂道を下っていくと、目の前に黒いごつごつとした岩場の岩館海岸が現れた。今日もやはり海は波濤を激しく砕かせ、一瞬たりとも穏やかな表情を見せることはない。風も絶えず強く吹き付ける。私は本当は少し北側にあるらしいチゴリ灯台という所にも行ってみたかったのだが、もろに向かい風となって前進もままならない状況なので断念し、海岸を南下する方向へ進むことにした。

岩館海岸 海沿いの集落を南下すれば、海岸には胸の高さくらいの防波堤が立ち、その間際へは溜まった雪に阻まれて進めないからなかなか海のすぐそばまでは行けなくなってしまったのだが、強い風の音と、波の砕け散る轟音は常に聞こえてくるので、それだけでも充分に険しい雰囲気は感じられたし、防波堤の切れ目に来れば岩礁の外側で激しく波が砕け散る一方で、岩場の内部は意外に波が穏やかであることも垣間見られた。そのような岩場には鴎たちが浮かび、時折押し寄せる激しい波をバックに、群れをなして大空を舞っていく。海岸には素朴な漁村が展開し、雪掻きに追われる住民の傍らで子供たちや犬が元気に駆けずり回る素朴なシーンも展開する。雲の切れ間から青空がのぞけば極めて穏やかな風景となるのだが、やはり吹雪も断続的に訪れ、そんな平和な風景など許さないと言わんばかり、辺りの風景を真っ白に塗りつぶしていく。道はやがて海岸から離れて高台へ登り、岩場の海岸を広く見渡せるようになったが、更に進んでいくと次の比較的大きな港が現れた。新しい集落もまた広がり、高台へ登れば、入り江の中心に開かれた港とその周りで丘陵に守られる集落に、やはり激しい波が打ち寄せる風景が一望のもととなった。

 程なく道は海へ突き出す大きな岩の上に通る国道と合流し、海とは暫く別れることになる、沿道にはハタハタ館という、入浴施設と土産物屋、食堂の入った施設がぽつんと現れた。車は何台か停まっていたから温泉には客がそれなりに入っているのかもしれないが、土産物屋の領域はあくまでひっそりとしている。そして屋根のついた橋を渡ると、あきた白神という新設駅があった。周囲の公園を管理する建物で切符も売っていたりしたが、公園自体が雪に埋もれてしまっている現在、人の気配はその切符を売る係員のものしか私には感じられなかった。

 私は吹雪の中、駅をあとにして滝ノ間海岸へと進んだ。何もない林の中の雪道を進んでいけば、程なく小さな家が狭い路地を固める住宅街が現れ、海岸へ降りる道もすぐに見つかった。坂を下っている間は、黒いごつごつした岩が散りばめられる海岸に、波が激しく寄せる様子が高台からよく眺められたのだが、海と同じ高さまで下りると防波堤に遮られてしまい、険しさを音だけでしか感じることができないまま、私は海岸に沿う道を進むしかなかった。海岸も岩館と同じようなごつごつとした感じらしく、海に面する集落の様子も、規模が小さいことを除けば、岩館とよく似たものだった。

滝ノ間海岸 辺りはだんだんと薄暗くなってきた。海岸に再び港が建設された所で、私は海岸の道からは離脱し、集落の背後を固めている崖の上の住宅街へ向かって、路地のような坂を登った。実はそこが、ごつごつとしたこの辺りの海岸を見渡せる数少ないポイントであるようだった。そして家並みに紛れるように、ホーム1本と小屋だけで成り立つ滝ノ間駅もひっそりと佇んでいた。列車を待つまでの間に、外はぐんぐんと暗くなっていき、最早列車から車窓を望むことはできなさそうな感じになっていた。ひっそりとした無人駅にストーブなどはなく、必死になって歩いている時には気にならなかった寒さに、私は必死で耐えなければならなくなった。

 そして私は、少し遅れてやってきた五能線の列車に乗り込んだ。岩館駅から少し戻ってきた格好になるのでまずはさっきと同じ道ということになったけれど、最早外は闇の中となり何も見えなくなっていた。岩館に近づけばさっき訪れたはずの集落に建つ建物の灯りだけが車窓に流れていった。私は待合室に比べれば天国のような温かさのような車内で、暫しまったりと過ごしたのだった。

 私は今日の宿を取ってあった陸奥岩崎駅で下車した。この駅は無人化されて間もないらしい。駅の周囲には小さい商店街のようなものが成り立っていたが、もう夜の暗さになっていたためその全体像を掴むことは私にはできなかった。宿はそんな小さい商店街の一部であるかのように佇んでいた。決してきれいな建物ではない古い旅館だったが、湯は間違いなく温泉であった。


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