1.往路(3.29) / 2.住吉、堺(3.30) / 3.生駒、大阪城、大川(3.31) / 4.箕面、万博記念公園、天神橋筋(4.1) / 5.復路(4.2)
いつもながらに忙しい学年末を乗り越え、野球部の春季大会も負けはしたけれど楽しめる試合をさせてやることができて大きな仕事も何とか一段落させることができ、春期講習までの間に無事頂くことのできた数日間の休暇。私は初めてぷらっとこだまというチケットを利用して、大阪へ向かうことにした。上着を着ていると汗だくになるような春のぽかぽか陽気のもと、住宅街の桜の花も一気に勢いを増した午後の東京をあとにして、私は新大阪行きのこだま号の乗客となった。空いている車内からは銀座などの都会の街並みが大きく眺められ、庭園や高速の橋桁、ビルの谷間にも、また品川を過ぎて背の低くなった建物の間にも桜の花は咲き誇る。時折渡る大河の明るい風景も決して私にとって初めての風景ではなかったけれど、これから始まる旅に向けてわくわくとした気分を盛り上げる風景が、新幹線の車窓に展開していった。
東京では寧ろがらがらだった車内も品川、新横浜と停車するにつれて賑わいを見せるようになっていく。神奈川県内を進むにつれて、建物の間にはまだ土の面が出たままの畑が見られるようになり、地面も起伏に富むようになってきた。そしてやはり桜のちらほらと咲く湯河原温泉を過ぎて熱海に近づけば、よく晴れた空のもと、崖下に広がる熱海の温泉街の向こうには、初島を擁する海が透き通る青さを見せていた。午後の列車には時折強い西日も差し込んできて、恐らく富士山が大きく見られることになりそうな山側の窓には殆どにブラインドが降りて、富士山をのんびり眺めようという考えの乗客がどうやら多くは存在しないらしいことを示していた。平日のこんな時間に新幹線に乗る人というのは、観光目的というよりは乗り慣れている「いつもの客」が多いということなのかもしれない。
こだま号は当然多くの駅に停車するが、ひかりやのぞみに追い越されるために、多くの駅で数分ずつ停車していくことになる。しかし駅と駅の間ではさすがに新幹線らしい俊足を示し、畑の中や家並み、工場の中へとめまぐるしく移り変わる風景を車窓に映しながら走っていく。そんな風景を遠目に見ながら私は車内サービスのFMラジオを聞いたり、旅行ガイドなどを紐解きながら明日以降の作戦を考えたりしていた。今日はよく晴れたけれど、明日以降の天気は思わしくない見込みらしい。せめて歩きやすい天気にはなってほしいものだ。
たくさんいた乗客も静岡県内の駅で徐々に下車し、車内は再びがらがらに近い状態に戻りつつあった。掛川、浜松と進んでいくうちに、外は少しずつ薄暗くなっていく。建物や大河、そして田畑へと風景がめまぐるしく移り変わる中、浜名湖に差し掛かった列車は水面からそんなに離れない高さの橋の上を滑るように走り、一面に広々と湖の広がる、束の間爽やかな風景を車窓に映し出していく。そして静岡県を抜けて豊橋に着く頃には、街にはだいぶ多くの灯りが点るようになってきた。私はぷらっとこだまの特典の無料ドリンク券を缶ビールと引き替え、東京駅で買っていた弁当の夕食を楽しんだ。外はますます暗くなっていき、三河安城に来る頃には車窓の風景は完全に夜景となっていた。そして名古屋を過ぎてしまえば列車はひたすら夜の闇の中を走るのみとなり、私は車窓に光の粒だけが高速で流れていくのを眺めながら、列車に身を任せることしかできなくなってしまったのだった。京都を過ぎればそんな街の灯りの量も増え、闇の中にもきらびやかな車窓が展開するようになっていった。
私は夜の新大阪駅へ降り立ち、宿を取ってあった新今宮へ向かって通勤電車へ乗り継いだ。窓が大きかったり、液晶テレビが天井についていたりと東京の列車とはかなり違う車両に新鮮な気分となりながらも、大阪駅で乗り換えてみれば無意識のうちにエスカレーターの「左側」に立ち止まってしまって地元の人達に迷惑をかけてしまったりという一幕もあった。大阪からは阪和線へ直通して関西空港へも向かう環状線の快速列車に乗り継いだが、がらがらで入線した列車は長蛇の列を次々と飲み込み、ラッシュの様相となって夜の大阪の街をひた走っていった。
私は予約してあった宿の近くの新今宮駅で列車を降り、今回の旅で使うスルッとKANSAI 3 daysチケットという、私鉄に乗り放題となる乗車券を南海の駅で手に入れて、街へと出た。新今宮の街は、道は広いのだけれどどことなく雑然とし、夜だから当然だけれど薄暗いような独特の雰囲気を持つ。時間が時間だけに当然多くの店は閉まっているが、作業着屋やオールナイト営業のうどん屋など僅かな店が繁盛する。辺りには私が予約した宿も含めてやたらと宿泊費の安い宿がひしめき合い、自販機も50円や80円など安いものがいくつも立ち並ぶ。そんな雑然とした街には不意にチンチン電車が走り抜けていく。うすうす噂は聞いていたが、この辺りはどうやら大阪のディープな部分ということのようだった。
ネットで見つけて驚いた宿泊費の安い宿は、3畳の小さい部屋ではあったが小綺麗だし、近くにはコンビニや、食料品も含めて品揃え豊富な100円ショップも夜遅くまで営業していて、不自由を感じることはなさそうであった。外国人の宿泊客も多くてロビーの雰囲気に多少不慣れなものが感じられはしたが、部屋にいる限りは寛ぐことができそうで、私は明日からの旅を楽しみにのんびりと夜を過ごすことにしたのだった。