鹿児島(1997.7.18-22、8.26-29)


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 大学院2年の夏は、初めて教員採用試験のための全国行脚を行った。研究室もだいぶ長く休みを取り、日本全国を巡ったわけである。新幹線で暑い九州に入り、特急に乗り継ぐ。そこそこきれいに見えた八代海や水俣湾を横目に、鹿児島県へ入ると、いかにも遠くに来たなあといった感じの山林や田畑ばかりの風景へと変わっていった。出水(いずみ)のあたりでは、直前に発生した土石流の爪痕も見られた。気づくのが遅くて、尾根を一つ越えてからになってしまったのだけど、緑色の肌がえぐりとられたように、真っ赤な土がむき出しになっていた。まがりなりにも砂防ダムがあったから、線路の数百メートルで止まった、みたいなことを、数日前のニュースで言っていたような気がするが、いっちゃってたら、棄権せざるを得なくなってたかも……。

 だいたいからして遊びに行ったわけではないから観光はなし、のはずが、移動の間合いを見計らって結局観光モードにどっぷり浸ってしまうのはまあ、しかたないところであろうか。鹿児島といえば天文館通り、ってわけで、わざわざ路面電車で出向いて夜の街へ。まあ、地方都市だから、たとえアーケードは明るく人通りは多くとも、やってる店自体そんなに多くない。晩飯にと思って、ラーメン屋に入ったのだが、とんこつのでろんでろんのスープに太麺の鹿児島ラーメンは、けっこう好き嫌いがありそうな感じだが、私は好きになった。そして、この町には温泉銭湯が点在する。大した金をかけなくてもいい気分に浸れるのは、この街のいいところかも。


 当時は前日に試験会場の下見をするという真面目さがあったので自然と日程には余裕が出た。翌日は、とりあえず勉強目的で鹿児島市立図書館に行ったのだが、同志が多くて退散。しかしここはなかなかいい図書館である。数週間前に訪れた函館のが古い建物を大事にしようとするあまり機能面で△だったのと対照的で、新しい建物だし、機能もしっかりしてるし、蔵書も多いし。それ以上に感心させられたのが、建物がつながっている市立科学館。土地柄か、桜島がらみで地質関係や、種子島がらみで宇宙関係でかなり充実しているという印象を受けた。だいいちいろいろ遊べる。窓から見えるはずの桜島が、霞んではっきり見えなかったことだけが残念だった。


 その翌日が1次試験であり、一段落着いた夜、友人の薦めに従って、私はフェリーが24時間運行しているという桜島に向かうことにした。7時半だというのにそこそこ明るかった西駅近辺だったが、電車道に沿って歩くにつれ、ネオンライトが出迎えてくれるようになった。路面電車を止めてしまうほどの祭りの後片づけに明け暮れる街を通り抜け1時間ほどで、祭りの余興の花火が打ち上がる鹿児島港へ。そこそこきれいでそこそこにぎやかな鹿児島から静かな桜島までは、そんなに時間も金もかからない。

 水面に反射する光で桜島のターミナル近辺は明るいけど、恐竜公園の領域に入るとあたりは一気に闇に包まれる。おりしも満月、月明かりがあって、暗い道には木立の枝葉の形がくっきりと浮かび上がった。そこに、花火の轟きが雷のように……。恐竜公園は、高台の野原だった。山の方を見れば、満月に照らされた桜島が浮かび上がり、噴煙が雲までの道を開拓する。一方麓の方を見ると、海の向こうに、鹿児島の街の光の粒が、横にそれは長く連なる。何というか、ぼーっと一晩でも過ごせてしまいそうな、とてもきれいな所だった。もし飽きたとしても、その辺の芝生に寝っころがれば、きっと朝になっていることだろう。ビールに酔っ払って帰りの船に乗りながら、私は何だかすてきな夢を見させてもらったような気がしていた。


 試験は連続して次に青森でもあったのだが、1日くらいゆっくりできる日程だったので、私は翌日も鹿児島にとどまった。午前中は市内の観光地を巡る路線バスの「鹿児島シティービュー」に乗って、鹿児島城跡の城山展望台と、嶋津邸跡の磯庭園を回った。とてもいい天気で、高いところから街並みの向こうに見る桜島も、磯庭園の優雅な雰囲気で眺める桜島も、大きくて、とてもきれいに見えていた。

 午後は再び桜島へ行くことにした。市内からでも大きく見える桜島だったが、フェリーで近づくにつれ、その様相はよりはっきりしてくる。緑色は中腹まで、それより上は、溶岩むき出しの茶褐色をしている。桜島ビジターセンターでちょっと勉強してから、私はなぎさ遊歩道を歩いた。塊状溶岩がそのままの形で辺りにごろごろし、道はそんな荒々しい風景の中を進んでいく。そのごろごろは海岸線まで達し、いい磯浜を作っている。「違う世界に来たような……」という説明がビジターセンターにもあったけれど、なるほどそう言われてみれば、そうなのかもしれない。私は港にあったパンフレットを信じて、町営バスに乗り、島を時計回りに1/4周して、白浜温泉センターというところに向かった。進んでいくにつれ、桜島の見え方が微妙に違ってきた。ここの温泉は「マグマ泥湯」が特色というが、要するに、「体によさそうな泥水」。銭湯並の料金で楽しめ、露天風呂もあったし気分は爽快であった。桜島港に帰るバス、そして、鹿児島に戻るフェリーを先導したのは、夕暮れのオレンジ色の太陽であった。夕陽は海面をきらきらと輝かせ、フェリーはその、太陽が建設した輝かしい道に沿って、海 を進んでいった。

 その日の夜行列車で私は鹿児島をあとにし、次の試験の控える青森へ向かった。1次試験に落ちていれば鹿児島の旅はこれで終わりになったはずだが、どういうわけか2次試験を受けさせてくれることになったので、8月の末に私は再び研究室の休暇を取った。


 2次試験の会場は、鹿児島市内からバスに45分も揺られなければならない奥地であった。予定より早く終わったからと言って、少ないバスの便がなければ身動きをとることができない状態だった。暇を持て余してしまうよりはと、ちょうどやってきた、駅とは反対側に向かうバスに私は衝動的に乗り込んだ。吉田町の田舎道を、バスは坂を登ったり降りたりしながら進んでいく。特に坂を降りる時車窓に広がる、深い森の谷間に奥まで田畑の連なる風景、そしてその田畑の高さまで降りたバスは、ガードレールもない緑の中の細い道を進む。なかなか絵になる風景が展開する。バスは吉田町役場前の本城というところまで。西駅ターミナルの地図ではこの先、重富につながる線もひかれていたような気がするのだが、実際にあったのは途中の蒲生(かも)ゆきばっかり、それも1時間待たないと次がこないという有様。私は素直に引き返すことにした。

 延々と田舎道を走ったバスはやがて天文館へ。あんな風景と天文館のにぎやかな風景がバスでつながれているという事実は、感動的でさえある。天文館ではこれまた友人の薦めで、私は「白熊」という食べ物に挑戦した。要するに、山盛りの素のかき氷に様々な果物が突き刺さっていて、レーズンが白熊の顔みたいという食べ物で、白熊アラモード、チョコレート白熊、紅茶白熊(ここまできたらもはや白熊でなくてヒグマかツキノワのような気が……)等のバリエーションはあるが、どうもサイズ的に「甘いもの専用胃袋」を持たない人種の食い物ではないようで……というわけで、私はミニサイズの「子ぐま」に挑戦することにした。掘り返せばそのたびいろんなものが出てきて、奥の深い食い物であった。

 2次試験の日程はこれで終わりになったので、翌日の特急と新幹線で私は横浜へと帰還した。もちろん試験の結果が×だったのは言うまでもない、か。


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