鳩ノ巣渓谷は多摩川の上流に当たり、当時住んでいた国分寺からは電車で1時間ほどで行けるところである。紅葉の季節は学園祭と重なったり、ほかにもなんやかんやでなかなか行く機会がなかったのだが、4年の最後の秋にようやく行くことができた。
立川から乗る限り青梅線は単なる近郊電車にすぎないが、青梅を過ぎるあたりから風景はいよいよ山深くなり、この季節でしか見られない鮮やかな雰囲気を呈するようになった。このあたりは植林された松や杉などが多くて、たとえば日光あたりで見られたように一面が暖色系の色で占められるということはないのだけれど、光の加減で濃淡のついた陰鬱な緑色の中に、鮮やかな赤や黄色が、時には点在、時には群生し、それは美しいコントラストを醸し出している。
電車の車窓からでもきれいな風景が見られたが、実際にそんな渓谷に足を踏み入れるのもまたおもしろいものになる。鳩ノ巣駅で電車を降り、私は鳩ノ巣渓谷の遊歩道へ歩みを進めた。いくつかの吊り橋を渡ると、道は川辺の岩場を縫うように進むようになってくる。音を立てて細く激しく流れる渓流は、深い谷間を形成し、周りを囲む山はすべて、緑と黄色と赤の画素がランダムに配された壁紙で飾り付けられる。アップダウンを繰り返す遊歩道を歩きながら私は、そんな鮮やかで美しい風景に、ただ見とれるしかなかった。
遊歩道の終点は白丸ダムとなり、道は築堤の上へ登っていった。足下からはダムの水が勢いよく大きな音を立てて流れ落ちる。そしてその両側を固める山肌には、ここに来てそのシェアを増した黄色と赤が、とても鮮やかな風景を作り出していたのだった。
白丸駅へ出た私は、いったん電車で奥多摩駅へ出た。奥多摩駅からすぐのところで、二つの川が合流し、氷川渓谷を形成する。渓流のダイナミックさは鳩ノ巣渓谷の方が勝るけれども、ここでは流れが緩やかなので、川辺に降りることができる。紅葉の風景の中、流れる水はどこまでも透き通っていた。そのきれいな水に、私は心を洗われたような気がした。